こんばんは。 「朝の青空」です。
3連休、いかがお過ごしでしょうか?
厳しい寒さの中での初出勤の1週間を終えて
ホッと一息つける連休は、少し嬉しいです。
はじめに
浅田次郎さんの小説『おもかげ』は、2017年に毎日新聞出版から刊行された作品で
親子の情愛をテーマにしたファンタジー・ノスタルジー小説であり、
人生の折り返し地点に立った今だからこそ、深く沁みた物語です。
2023年には中村雅俊さん主演でNHK BS4Kにてドラマ化されました。
浅田次郎さんの作品は、丁寧な言葉遣いと、
人間の心の奥底にある思いを、そっと浮かび上がらせるような作風が心地よくて、私は学生時代から愛読しています。
本作『おもかげ』は、何年か前、会社帰りにふと書店に立ち寄った際、このタイトル名に惹かれ、久しぶりに浅田さんの新刊を読みたくなって手に取った一冊でした。
そして今年のお正月、両親のお墓参りをきっかけに、
久しぶりに本書を再読しました。
あらためて胸に迫るものがあり、
想いが消えないうちに、以下に書き留めてみました。
同じような思いを抱いた方がいらっしゃったら嬉しいです
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浅田次郎さんの魅力
浅田次郎さんは、多くの作品で数々の賞を受賞し
直木賞の選考委員も務めるなど、日本文学界の重鎮の一人。
自衛隊や個人会社の経営など、多彩な職業経験の持ち主です。
こうした人生経験があるからこそ、人の弱さや後悔を、裁かずに描けるのだと思います。
執筆スタイルも特徴的で、今もなお400字詰め原稿用紙を使い
多くの辞書に囲まれた書斎で胡坐をかいて執筆するという
古風ながらも誠実な姿勢が印象的です。
浅田次郎さんのそういう姿勢と、やはりあの柔らかい言葉遣いが、私はとても好きです。
『おもかげ』のあらすじ
物語は、65歳で定年を迎えた主人公・竹脇正一が
送別会の帰りに地下鉄の車内で倒れ、病院の集中治療室に運び込まれるところから始まります。
意識不明の状態で横たわる自分の体を横目に、正一は幽体離脱のような体験をし
過去の記憶や思い出の場所を巡る旅に出ます。
その旅の中で、彼は自らの出自や家族との関係、封印していた感情と向き合い、心のわだかまりを解きほぐしていきます。
誰しも一度は、こんな旅に出てみたいと思うのではないでしょうか。
まさにファンタジーです。
読みどころ
1. 心のわだかまりとの対峙
――誰の胸にも残る、言葉にできなかった感情
主人公・正一は、孤児として育ち、家庭を持ち、仕事に邁進してきた人生の中で
心の奥底に封印していた感情と向き合うことになります。
母親への複雑な思い、幼くして亡くした息子への後悔など
誰しもが抱える「心のわだかまり」が、死を迎える直前に浮かび上がり、浄化されていく様子が丁寧に描かれています。
2. 地下鉄が象徴する心の旅
物語の中で、正一は夢の中で地下鉄に乗り、過去の思い出の場所を巡ります。
地下鉄は、彼の心の奥底への旅路を象徴しており、記憶や感情の深層を辿る手段として描かれています。
この設定は、浅田次郎さんの他の作品『メトロに乗って』にも通じるもので、
地下鉄を通じて過去と現在、現実と幻想を行き来する構成が印象的です。
読後の自分との会話
読中、そして読後に、
何度も、亡き両親の姿が心に浮かんできました。
物語の中の正一と同じように、
私もまた、過去の時間を静かに辿っていたのだと思います。
若くして亡くなった私の両親ですが、
ありがたいことに、生前の両親との間に
大きな「わだかまり」はありません。
いつも思い出されるのは、
守られていた感覚や、当たり前のように用意されていた日常です。
今振り返ると、
「本当に大切に育ててもらったのだな」と、
感謝の気持ちしか浮かびません。
けれど――
『おもかげ』を読み進めるうちに、
胸の奥に、静かに残っている感情にも気づかされました。
それは、
「これから親孝行をしよう」
「もう少し落ち着いたら、ゆっくり話をしよう」
そう思っていた矢先の、突然の別れだったという事実です。
もし今、親と話せる時間があるとしたら、何を話しますか?
多くの方も、似たような経験をお持ちではないでしょうか。
忙しさに追われ、
「また今度」「そのうちに」と先送りしていた時間が、
ある日を境に、二度と戻らないものになる――。
もっと長生きしてもらって、
孫の成長を一緒に喜びたかった。
家族で、何気ない食卓を囲みたかった。
そして、特別な話ではなくてもいいから、
もっとたくさん、言葉を交わしておきたかった――。
それが、今の私にとっての
唯一の「心のわだかまり」なのかもしれません。
ただ、『おもかげ』が教えてくれたのは、
後悔を消すことではなく、
その思いとどう共に生きていくか、ということでした。
両親から受け取った愛情や教えを決して忘れず、
感謝の気持ちを胸に、
日々を丁寧に生きること。
それが、今の私なりの
両親への何よりの供養なのだと、
この物語を通して、静かに腑に落ちた気がしています。
終わりに
『おもかげ』は、親子の情愛や人間の本質に迫る、心温まるファンタジー小説です。
人生の終盤に、自らの過去と向き合い、心のわだかまりを解き放つ主人公の姿は
私に、深い感動を与えてくれました。
浅田次郎さんの美しい文章とストーリーは、多くの方に読んでいただきたいですね。
そして、この本は
親を見送り、あるいはその時を意識し始めた世代の方に、
ぜひ手に取っていただきたい一冊です。
忙しい日々の中で、
ふと立ち止まり、これまでの人生や、
大切な人との時間を振り返るきっかけを、
きっと与えてくれると思います。
今夜、ふと電話をかけたくなるかもしれません。
あるいは、次に会う日のことを、少しだけ大切に思うかもしれません。
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今回も最後まで読んで頂いて、ありがとうございます。
ではまた。